「ちょっと手伝って欲しい」
その一言を声に出して伝えることが、なかなか容易ではない方もいるのではないでしょうか。
助けを必要とする本人がその一言を発することや、さらには周りの人が“SOS”を察する力を持つことで、介護される人と介護する人の関係は改善されていきます。
人の考えは言葉に表さないとわからない場合が多くあります。「察して欲しい」ではなく、表現する力や他者の小さな変化を見つける力を持つことが重要であると、私自身も日々感じています。
今回は、そういった力をつけるために必要コミュニケーションについて考えてみます。
■心の内を伝えられないのはストレスが要因!?
-自分の体が自由に動かない。
-今まで自分でできたたった些細なことも、人の手を借りなくてはできない。
このような介護下における要介護者の状況は、心の健康にも影響を与えます。意図していなくても、周りの人に当たり散らしてしまうこともあるでしょう。これは心の中に積もったストレスが『声』や『態度』を使って表現されているのです。
これまで表現されずに溜まっていた鬱憤は、ストレス神経系や心臓などにも影響してきます。
日本の文化では、“相手の気落ちを察すること”“空気を読むこと”が美徳とされているところがあります。介護を受ける方にとっては、身体の不自由が日常になっており、その結果「体がうまく動かないのは見てわかるはず」という認識ができてしまう事があります。
介護する側の人が相手の気持ちを察する力や空気を読む力が長けていると、その認識をプレッシャーに感じてしまう場合があるのです。うまく対応できない場合には、故意にそれらの認識を気づかないふりなどをして避けるようになることもあります。
こういったコミュニュケーションの循環は不健康で、双方の心理的ストレスを増加させる状況を構築していきます。
■コミュニケーションの大切さ
自分以外の人に意思を伝えるために言葉は存在します。
現在は、ソーシャルメディアを中心に、文字をつかったコミュニュケーションが増え、人と直接話す機会が減っています。文字は最低限自分の意思を伝えることはできますが、抑揚や相手の表情が見えないばかりに、誤解を生むことも多いです。
直接会って話す場合は、多少言葉が足りなくても雰囲気やニュアンス、表情などから読み取れることもあります。
もし、直接言葉で伝えることが難しい場合は、自分の気持ちを誰が読んでも誤解なく伝わるように言葉を重ねて伝え、“丁寧に気持ちを綴る”意識を持ちましょう。
現在、介護中の方はそうした“伝える工夫”をしているか、今一度振り返ってみると、自分に足りていないところや相手に足りていないところが見え、思いやりを持ったコミュニケーションに意識が向いてくるのではないでしょうか。
介護される人も介護をする人も、一言相手に自分の気持ちや要求をきちんと伝える機会を持つことが大切です。黙っていては問題は解決しません。直接言葉で伝えるのが難しければ、丁寧に文字にして気持ちを表現してみたり、伝え方を工夫してみたりしてみましょう。
少しの努力が、双方の関係を改善していきます。
安藤 麻矢 Maya Ando (コラムニスト)
ライター歴20年。専門分野は社会科学。趣味は動物の短編を書いたりイラストを描いたりすること。同情よりも共感が少なくなっている世の中、小さな手助けが人の心を救えることを信条としている。米国大学にて心理学学位取得、香港の大学にて健康行動学でマスターを取得しており、グローバルな視点と知識をもとにしたコラムを執筆している。LIB Laboratoryでは自身の介護経験を通じて感じることを心理学的な視点を交えてお伝えしている。https://www.liblaboratory.com/andomaya
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