介護中にうっかり口を滑らせて、相手を傷つけてしまったご経験はありませんか。「しまった」と思っても時すでに遅し・・・。
その後のコミュニケーションに支障をきたしてしまうなど、気まずい思いをすることも。
そんな状況を防ぐには、日ごろの心のケアがとても重要です。
今回は、介護中の「うっかり口を滑らせた!」を防ぐ方法についてお伝えします。
■『スリップ・オブ・タン』って何?
『スリップ・オブ・タン(slip of the tongue)』を直訳すると『滑る舌』になります。日本語で言うところの、「うっかり口を滑らせる」と同様の意味を持ちます。
心理学用語に『フロイディアン・スリップ(Freudian slip)』という言葉があり、精神分析の生みの親であるジークムント・フロイトが立てた、抑圧された欲求や秘密の欲求を誤って口にして明らかにしているという心理学的理論を指します。つまり、「うっかり口を滑らせる(スリップ・オブ・タン)」は常日頃から心で思っていることが、あるきっかけで無意識のうちに口から出てしまう、ということ表しています。
この『スリップ・オブ・タン』が介護の時には非常に厄介な問題をもたらすことがあります。
例えば、親を介護中に「老人施設に行けばいい!」などとうっかり強く怒鳴ってしまうことなどないでしょうか?
普段は愛情を持って面倒を見ていても、介護の大変さから、やはり専門施設に預けたい、などと切望している ことはないでしょうか?
私たちが赤ちゃんの時は、親や親代わりとなる人に面倒を見てもらうからこそ成長してきました。介護とは、成長した私たちが、今度は子供の頃お世話になった年老いた人たちの面倒をみる順番が回ってくるのだと、私は思うのです。
ただ、心では「自分のことを育ててくれた老いた親の面倒を見てあげたい」と思っていても、介護を抱えるということは並大抵のことではありません。介護する側は精神的にも体力的にも相当強靭でなくては務まらないことを当事者として強く感じます。
人間ですから弱音を吐きたくなることだってあります。しかし、そんな自分の心の叫びが、うっかり言葉になって口から出てしまい、相手に伝わってしまった時は大変です。 言った本人は本当に実現しようとは思っていないことも、 言われた相手からしたら相当なショックを感じることでしょう。
言葉とは時に非常に残酷な武器となります。ですから、言葉は選んで話さなくてはなりません。相手の気持ちを考え、シチュエーションによって話す内容を考慮する必要があるのです。
■『スリップ・オブ・タン』を防ぐ方法
幼かった自分にとっては強かった親も、今ではすっかり力なく弱々しい。そんな親の様子を見るとイライラしてしまうこともあるかもしれません。そして、そんな親に対して心の内にある失望や哀れみが大きくなることだって当然あるでしょう。
しかし、勢い余って出てしまった『スリップ・オブ・タン』は、人の心を傷つけ、その後の関係にも影響をきたします。
そこで、ネガティブな気持ちを抑圧したままにせずに、形にしてあげることで、うっかり口から出てしまうことを防ぐこと方法をお伝えします。
例えば、
日記 に自分の気持ちを表現する
介護をしている方のグループセラピーなどに参加する
個別のカウンセリングなどを受ける
など。
介護をする側のネガティブな思いは心に抑え込むことは危険です。
良くない感情を受けるコップが一杯になれば当然溢れ出て『スリップ・オブ・タン』のような思ってもいない形になってしまうこともあります。溢れ出たそれらの言葉は元に戻すことができないのです。
心が余裕をなくしてしまう前に風通しを良くしてあげましょう。これは介護だけに関わらず、普段の生活でも同様のことが言えますね。
安藤 麻矢 Maya Ando (コラムニスト)
ライター歴20年。専門分野は社会科学。趣味は動物の短編を書いたりイラストを描いたりすること。同情よりも共感が少なくなっている世の中、小さな手助けが人の心を救えることを信条としている。米国大学にて心理学学位取得、香港の大学にて健康行動学でマスターを取得しており、グローバルな視点と知識をもとにしたコラムを執筆している。
https://www.liblaboratory.com/andomaya
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